病院の発毛外来で使われているお薬は、脱毛を防ぐ「フィナステリド」または「デュタステリド」と発毛を促進する「ミノキシジル」です。
AGA(男性型脱毛症)の治療でこのお薬が処方されるのは、日本皮膚科学会が定めた「AGA診療ガイドライン」で推奨度A(使用を強く奨める)に指定されているからです。
今回は、この3つのお薬がなぜ推奨されるのか(AGAになぜ効くのか)を分かりやすく説明します。
AGA診療ガイドラインとは
日本に発毛外来ができたきっかけは、2005年のフィナステリドの発売承認でした。治療薬がないうちは病気と認められなかった「薄毛」が、初めて「病院で治療する症状」として認められたのです。
これを受けて日本皮膚科学会は2010年に「AGA診療ガイドライン」を作りました。ガイドライン作成の目的は「科学的根拠に基づく情報を選出し、医師・患者にとって標準となる治療法の提示と
AGAの診療水準を向上させること」です。
ガイドラインは2017年に改訂されて、現在に至っています。
ガイドラインが科学的根拠に基づいて有効性を検証して「使用を強く推奨」しているが、内服薬のフィナステリドまたはデュタステリドと外用薬のミノキシジル(外用薬)です。
内服薬の「フィナステリド」「デュタステリド」とは
フィナステリドは2005年に、デュタステリドは2015年に承認されたお薬で、どちらも脱毛を引き起こすDHT(ジヒドロテストステロン)の作用を阻害するお薬です。
DHTは男性ホルモンの1種で、テストステロン(男性ホルモン)に5αリダクターゼという酵素が結合したものです。
テストステロンに脱毛を起こす作用はありませんが、これがDHTに変化するとヘアサイクルを乱して「毛髪が成長する前に抜ける」症状を引き起こします。
DHTに変化するとヘアサイクルを乱して「毛髪が成長する前に抜ける」症状を引き起こします。
薄毛やはげの原因は「毛が生えない」ことだと思われていますが、正確には「生えた毛が育たないうちに抜けてしまう」ことです。薄くなったところをよく見ると小さな細い毛が生えているのがわかります。
「太く長い毛が減って、細く短い毛が増える」のがAGAです。その原因はテストステロンが5αリダクターゼという酵素によってDHTになるからです。
つまり悪の根源は男性ホルモンではなく、5αリダクターゼです。髪が薄くなるのは遺伝的要素が大きいと言われますが、正確に言うと「遺伝的に5αリダクターゼが多い人は髪が薄くなりやすい」です。
フィナステリドとデュタステリドは、この悪の根源の作用を阻害するお薬で「5αリダクターゼ阻害薬」と呼ばれています。フィナステリドを服用することで、テストステロンが5αリダクターゼと結合してDHTになるのを防ぐことができます。
DHTは、胎児期には男性生殖器の形成に、思春期には第二次性徴の発現に必要なホルモンですが、成人になってからはAGAや前立腺肥大を引き起こす悪役です。
フィナステリドとデュタステリドの違いは、フィナステリドがⅡ型5αリダクターゼを阻害するのに対して、デュタステリドはⅠ型とⅡ型5αリダクターゼの両方を阻害することです。治療で両方を使うことはなく、どちらを使うかは症状や副作用を考慮して決められます。
外用薬のミノキシジルとは
ミノキシジルは、血管拡張作用や発毛作用があるAGA治療薬です。もともとは高血圧の治療薬として開発された内服薬ですが、臨床実験中に多毛症の副作用が報告されて、薄毛治療薬(外用)にとして再開発されました。
ミノキシジル外用薬は第一類医薬品として市販されていますが、上記のフィナステリドまたはデュタステリドとミノキシジルを併用するのが、AGA治療のスタンダードとされています。
ミノキシジルの内服は副作用のリスクが大きいので、AGA治療ガイドラインでは「行うべきではない」とされています。
おわりに
AGA治療の最大のネックは健康保険が適用されないことですね。病院で治療するには月に1万円前後の自費負担になります。
しかし、病院で薄毛が治療できて、その効果に科学的なエビデンスがある現代は、ひと昔前の薄毛に悩む男性から見たら羨むべきことです。ぜひこの特権を活用されることをおすすめします。